デジタル広告の「品質」が問われる時代へ —ビューアビリティの確保とMFAサイト排除が、企業のブランドと社会を守る
2026/01/06
寄稿記事
寄稿提供:株式会社Spider Labs
インターネット広告市場は拡大の一途をたどっていますが、その裏で「広告が本当に人に見られているのか」「適切な場所に表示されているのか」という根本的な問いが、今改めて突きつけられています。
これまでは「安く、大量に」インプレッション(表示回数)を稼ぐことが正義とされる風潮がありましたが、その結果、広告主の予算が無駄になるだけでなく、ユーザー体験を損ない、さらには社会的に悪質な業者に資金が流れるという深刻な問題が浮き彫りになってきました。
本稿では、デジタル広告における「ビューアビリティ(視認可能性)」の重要性を再考し、昨今急増している「MFA(Made-for-Advertising)サイト」のリスクについて、総務省が策定した最新のガイダンスを踏まえて解説します。
なぜ今、「ビューアビリティ」なのか
1.広告主にとっての「見られない広告」の無意味さ
デジタル広告において、広告が表示された回数(インプレッション)は基本的な指標ですが、そこには大きな落とし穴があります。たとえシステム上で「配信された」とカウントされても、それがユーザーの目に触れない場所に表示されていたり、一瞬しか表示されなかったりすれば、広告としての効果は皆無です。
ここで重要になる指標が「ビューアビリティ(視認可能性)」です。 総務省のガイダンスおよび業界標準の定義によれば、ビューアブルインプレッションとは以下の条件を満たすものを指します。
・広告が視聴可能なスクリーンに表示されていること
・広告の一定面積(例:50%)以上が見える状態にあること
・広告が一定時間(例:1秒)以上見える状態であること
・ボットではなく、人間によるアクセスであること
もし、あなたの出稿した広告のビューアブル率が50%だった場合、予算の半分は「誰にも見られていない広告」に費やされたことになります。単なるインプレッション数だけをKPI(重要業績評価指標)にしていると、この無駄に気づけず、実際の広告効果と想定に大きな乖離が生まれてしまいます。
2.ユーザーにとってのビューアビリティとユーザビリティ
ビューアビリティの確保は、広告主の利益だけでなく、サイトを閲覧するユーザー(生活者)にとっても極めて重要です。
広告主が意図しない不適切なフォーマットで配信が行われる場合、広告がコンテンツの画面を覆い尽くしたり、誤クリックを誘発したりすることがあります。これは「ユーザビリティ(使いやすさ)」を著しく損なう行為です。
ユーザーにとって、見たくもない広告が記事の邪魔をする状況はストレスでしかありません。結果として、その広告主(企業)に対して「邪魔だ」「不快だ」というネガティブな感情を抱くことになり、ブランドイメージの低下に直結します。つまり、適切なビューアビリティを確保することは、ユーザーの快適なウェブ体験を守り、ひいては広告主への信頼を維持するために不可欠なのです。
ビューアビリティを脅かす「MFAサイト」の正体
ビューアビリティを阻害し、広告主の予算を食いつぶす最大の脅威の一つが、MFA(Made-for-Advertising)サイトと呼ばれる存在です。
1.MFAサイトとは何か
MFAサイトとは、その名の通り「広告収益を得ることだけを目的に作られたサイト」です。ユーザーに有益な情報を提供する意図はなく、大量の広告を表示させるためだけに存在し、以下のような特徴があります。
・異常な広告密度: コンテンツに対して広告の比率が極めて高く(30%以上など)、記事よりも広告が目立つ。
・自動更新(オートリロード): ユーザーが操作しなくても、広告枠が数秒ごとに自動的に切り替わり、インプレッションを水増しする。
・低品質なコンテンツ: 生成AIなどで大量生産された、中身の薄い記事や再利用された記事で構成されている。
・有料トラフィックへの依存: 検索流入ではなく、他のサイトの「クリック誘導広告」からユーザーを無理やり連れてくる。
2.MFAサイトに出稿するリスク
広告主がMFAサイトへ出稿してしまうことには、以下の致命的なデメリットがあります。
- 予算の浪費(アドフラウド被害): MFAサイトは広告を見せかけの水増しで稼働させるため、そこでのインプレッションはコンバージョン(成果)にほとんど結びつきません。Spider Labsの独自調査(2023年)では、ディスプレイ広告全体の2.75%、金額にして年間1億円以上がMFAサイトによって浪費されていたというデータがあります。さらに、2025年の調査では、約7,200万件のMFAサイトへの掲載が検知され、被害総額は約7,800万円にのぼると推計されています。
- ブランド毀損: 「有名ブランドの広告が、中身のないスパムのようなサイトに大量に貼られている」という状況は、消費者に不信感を与えます。実際に、著名なパブリッシャーであるForbesが運営していたサブドメインがMFAサイトの疑いを持たれ、大手ブランドの広告が意図せず掲載されていた事例も報告されています。
- ビューアビリティの欠如: MFAサイトでは広告が詰め込まれ、自動更新で次々と切り替わるため、ユーザーが広告を認識する時間は極めて短くなります。形式上のインプレッションはあっても、実質的な「認知」は獲得できません。
総務省ガイダンスが示す「広告主の社会的責任」
こうした状況を受け、総務省は「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」を策定し、広告主に対して意識改革と具体的な行動を求めています。
1.ミクロ視点からマクロ視点への転換
これまでの広告管理は、「自社の予算を守る(無駄な出稿を防ぐ)」というミクロな視点が中心でした。しかし、総務省のガイダンスは、より広い「マクロ視点(社会的責任)」の重要性を強調しています。
- 不健全なエコシステムへの加担: MFAサイトや、偽・誤情報(フェイクニュース)、違法アップロードコンテンツを掲載するサイトに広告費が流れることは、それらのサイト運営者に資金を提供することを意味します。つまり、対策を怠ることは、間接的に「社会に有害な情報の拡散を助長している」ことになるのです。
- ユーザーからの厳しい視線: 総務省の調査によれば、偽・誤情報が掲載されているメディアに広告が出ているのを見た際、92%の人が「広告主の印象が悪くなる」と回答しています。さらに、約半数の人が「広告主が社会的責任を果たせていないから問題だ」と考えています。
2.経営層の関与が不可欠
ガイダンスでは、現場担当者だけでなく、経営層が主体的に関与することを強く求めています。
現場の担当者は、どうしても「CPA(獲得単価)」や「クリック率」といった短期的な成果指標を追わざるを得ません。しかし、MFAサイトのような低品質な面は、クリックを誘発する仕組みを持つため、見かけ上の数字(クリック率など)が良く見えることがあります。 その結果、現場だけでは「数字は良いが、ブランドを毀損している」という矛盾に対応しきれないジレンマが発生します。経営層が「品質」や「ブランドセーフティ」を経営リスクとして認識し、リソースを割いて対策を指示しなければ、この問題は解決しません。
広告主がとるべき具体的なアクション
では、広告主は具体的に何をすべきでしょうか。総務省ガイダンスおよび専門機関の提言に基づき、以下の対策を推奨します。
1.指標(KPI)の見直し
「インプレッション数」や「クリック単価」の追求偏重をやめ、「品質管理指標」を導入しましょう。
・ビューアブルインプレッション率: 実際にユーザーに見られた割合を重視する。
・IVT(無効トラフィック)率: ボットや不正なクリックの割合を監視する。
2.技術的対策の導入(アドベリフィケーション)
人間の目ですべての配信先をチェックすることは不可能です。「アドベリフィケーションツール」を導入し、テクノロジーの力で不適切なサイトへの配信をブロックすることが有効です。
ツールを活用すれば、MFAサイトへの配信検知や、アドフラウドによる被害額の可視化、そして配信除外といった対策が可能になります。
3.配信先の「取捨選択」
配信先をブラックボックス化せず、透明性を確保する必要があります。
・ブロックリスト(配信除外リスト)の活用: MFAサイトや違法サイトをリスト化し、配信しない設定を行う。
・セーフリスト(ホワイトリスト)の活用: 安全性が確認された優良な媒体のみに配信する。
・JICDAQ品質認証事業者の利用: デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)の認証を受けた、信頼できる事業者を通じて取引を行う。
4.ガイダンスに沿った社内体制の構築
総務省ガイダンスでは、以下のステップでの体制整備を推奨しています。
1.担当部署・役員の明確化: 誰が責任者かを決める。
2.広告管理方針の策定: 「どこに出すか」「どこに出さないか」の基準を決める。
3.契約段階での合意: 広告代理店やプラットフォームに対し、品質基準を契約や発注要件に盛り込む。
質の高い広告が、健全なデジタル社会を作る
「ビューアビリティの確保」と「MFAサイトの排除」は、単なる広告テクニックの話ではありません。それは、「企業が自らのブランドを大切にし、同時にインターネットという公共空間の健全性を守る」という意思表示そのものです。
安価なインプレッションを追い求めて、誰もいない地下室(MFAサイト)にポスターを貼り続けるのか。それとも、適正なコストを払ってでも、人が行き交う明るい大通り(優良な媒体)に看板を掲げるのか。
総務省のガイダンスが示すように、広告主には今、その選択に対する「説明責任」と「社会的責任」が求められています。目先の数字に惑わされず、本質的な「価値」への投資へと舵を切ることが、中長期的な企業の成長と信頼獲得につながる唯一の道なのです。
調査概要
・名称:MFAサイトに関する被害額調査
・調査主体:株式会社Spider Labs
・解析対象:「Spider AF」によって計測された広告トラフィック(総クリック数:1億8,000万件)
・調査期間:2023年1月1日〜2023年12月31日
・調査方法:自社データベースに基づく分析
・名称:アドフラウド調査レポート(通年版2025)
・調査主体:株式会社Spider Labs
・解析対象:「Spider AF」によって計測された広告トラフィック(総クリック数:41億4,869万件)
・調査期間:2024年1月1日〜2024年12月31日
・調査方法:自社データベースに基づく分析
※調査レポート詳細は、株式会社Spider Labs公式Webサイト【https://jp.spideraf.com/】よりご覧ください。




