最新アドフラウド調査レポートが明かす「届かない広告費」の実態
2025/06/10
寄稿記事
寄稿提供:株式会社Spider Labs
「クリックはされている」「レポート上の数字は良い」。
それなのに、なぜか売上に結びつかない。そんな違和感を抱えたことのある広告主の方は少なくないのではないでしょうか。
その原因の一端にあるのが、「アドフラウド(Ad Fraud)」と呼ばれる広告不正の存在です。広告の表示やクリック、あるいはコンバージョン(成果)が、実は人間ではなくボットや不正目的の操作によって偽装されている——広告主が信じて払った予算が、実際には“誰にも届いていなかった”という事態が起きているのです。
Spider Labsが2025年に発表した「アドフラウド調査レポート(通年版2025)」では、弊社が提供するアドフラウド対策ツールが検知した41億4,869万件という膨大なクリックデータをもとに、日本国内の広告トラフィックの実態を詳細に分析しました。
本稿では、その調査結果をもとに、アドフラウドの現状と、広告主が取るべき対策の方向性について解説します。
弊社試算による国内の推定アドフラウド被害、年間約1,510億円規模に
同レポートによれば、日本国内におけるアドフラウドによる広告費の被害額は年間で推定1,510億円にのぼります。これは、「日本の広告費(2024年/株式会社電通コーポレートワン)」をベースに、Spider Labsが広告媒体別に計測した平均アドフラウド率(5.12%)を掛け合わせて試算されたものです。
さらに深刻なのは、最悪のケースで広告費の約半分(51.8%)が不正に詐取されていた事例も確認されている点です。つまり、レポート上では好成績に見えても、実際にはその半分以上が意味を持たない“不正クリック”であった可能性があります。
これはもはや、特定業種や一部の媒体に限られた話ではなく、デジタル広告に関わるすべての広告主にとって無視できない構造的リスクと言えるでしょう。
巧妙化する不正の手口:AIと“闇バイト”の時代
アドフラウドといえば、かつてはボットが自動的に広告をクリックするような単純な不正が主流でした。しかし現在では、以下のように手口が大きく進化・多様化しています。
・生成AIが生む「MFAサイト」
MFA(Made for Advertising)とは、生成AI等を用いて大量のコンテンツを作り、広告収益だけを目的とした低品質なウェブサイトのことです。こうしたサイトはSEOやSNS広告を通じてユーザーを集め、大量の広告表示やクリックを発生させますが、コンテンツとしての価値は低く、広告主にとっては広告費を無駄にする大きな要因となります。
・実在の人間が関与する“フェイクリード”
さらに厄介なのが、実際の人間を使ったフェイクリード(偽コンバージョン)です。いわゆる“闇バイト”のような仕組みで、報酬を得る目的で虚偽のフォーム入力や来店予約などが行われ、広告主は「コンバージョンが発生した」と誤認します。
調査レポートでは、2ヶ月間で400件以上のフェイクリードが発生し、約536万円相当の広告費が失われたケースも報告されています。さらに、フェイクリードへのフォローアップ対応や確認作業などにも多くの工数が割かれ、本来注力すべきリード育成や営業活動にも悪影響を及ぼします。
オーガニック流入も例外ではない
「広告をやめれば安全なのでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし、Spider Labsの分析によると、検索やSNS、ダイレクトなどのオーガニックチャネルのほうが、不正率が広告より高かったという事例もあります。
つまり、アドフラウドは広告チャネルにとどまらず、あらゆる流入経路に潜んでいる可能性があるのです。広告の有無ではなく、「トラフィックの質」に目を向ける必要がある時代になったと言えるでしょう。
見えないリスクにどう立ち向かうか?
アドフラウドは、数値レポートや管理画面では見えにくい“静かな脅威”です。しかし、対策の糸口は確実に存在します。具体的には以下のような取り組みが有効です。
・不正なプレースメント(表示面)や流入元を自動で検出・除外
・コンバージョンの質をCRMや営業データと照合して検証
・オーガニックを含むすべての流入経路を対象に不自然な行動パターンを監視
・広告レポートの数値だけでなく、LTVや商談化率までを含めた多角的評価
実際、これらの対策を講じたことで、ROI(投資対効果)が152%改善し、CPC(クリック単価)が85%低下したという事例も確認されています。
業界全体で求められる透明性と自衛意識
行政や業界団体による取り組みも進んでいます。
日本では、総務省が2025年に「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」を発表し、アドフラウド対策と取引の透明化を求めています。
国際的には、EUでデジタルサービス法(DSA)が施行され、米国ではANA(全米広告主協会)が「広告費の56%が消失している」[1]との報告書を公開するなど、広告費の実効性と透明性への関心はますます高まっています。
[1] Association of National Advertisers「https://www.ana.net/content/show/id/pr-2024-12-programmatic」
こうした時代の流れの中で、広告主自身が「見えない損失」を把握し、自らの運用に自衛策を講じることが今後の大きな課題となるでしょう。
終わりに:広告主の第一歩は「知ること」
アドフラウドは、決して一部の例外的な問題ではなく、誰もが知らないうちに巻き込まれ得る「業界全体の課題」です。
広告の数字が良くても成果が伴わない——そんな“なんとなくの違和感”を放置せず、事実ベースで見直すことで、広告投資の真価が初めて発揮されます。
まずは「知ること」から。そこが、健全な広告環境づくりの第一歩です。
調査概要
・名称:アドフラウド調査レポート(通年版2025)
・調査主体:株式会社Spider Labs
・解析対象:「Spider AF」によって計測された広告トラフィック(総クリック数:41億4,869万件)
・調査期間:2024年1月1日〜2024年12月31日
・調査方法:自社データベースに基づく分析
※調査レポート詳細は、株式会社Spider Labs公式Webサイト【https://jp.spideraf.com/】よりご覧ください。