JICDAQ記事


JICDAQとは-JICDAQ認証と賛同することの意義-

2025/09/26

JICDAQ記事

1. JICDAQの概要

インターネット広告市場が急速に成長する中で、広告の品質や透明性に関するリスクも比例して大きくなっています。日本では、アドフラウド(広告詐欺)やブランド毀損(ブランドセーフティ)問題が、「ネット広告の闇」として注目されました。きっかけは、2017年末から2018年に起きた以下の出来事です。

・違法海賊版サイト「漫画村」での広告収入の問題
・大手企業によるブランド保護の取り組みの加速

これらを背景に、日本でもアドベリフィケーション(広告検証)という対策が注目され、その中心的な役割を担う組織として期待されているのが、一般社団法人デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)です。

JICDAQ設立の背景

JICDAQは2021年3月に、日本アドバタイザーズ協会(JAA)、日本広告業協会(JAAA)、日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の広告業界3団体によって設立されました。設立の背景には、2019年のJAAから発表された「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」というガイドラインのような宣言があります。

JAAの「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」について簡単に説明します。2019年に発表されたこの宣言は、広告主(アドバタイザー)の立場から、業界全体としてデジタル広告市場の透明性を高め、不正な広告取引を排除することを目指すアクションを掲げたものです。具体的には、取引先に対して以下の8原則を定めています。

1.アドフラウドへの断固たる対応
2.厳格なブランドセーフティの担保
3.高いビューアビリティの確保
4.第三者によるメディアの検証と測定の推奨
5.サプライチェーンの透明化
6.ウォールドガーデンへの対応
7.データの透明性の向上
8.ユーザーエクスペリエンスの向上

詳しくは日本アドバタイザーズ協会「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」をご確認ください。


JICDAQとは?

JICDAQは、この宣言に則り、業界全体としてのデジタル広告の掲載先品質の向上と透明性確保を目的に活動しています。「一般社団法人デジタル広告品質認証機構」という名前の通り、主に以下の2つの分野で、「広告販売者」「広告取引・仲介事業者」「広告購入者」「広告計測事業者」を対象とした認証を実施しています。

・アドフラウドを含む無効トラフィックの排除
・ブランドセーフティの確保

認証を取得した企業は、企業名が公開されるため、広告主や業界全体における信頼性の向上が期待できます。また、JICDAQは広告主に対して認証取得企業との取引を推奨しており、2025年6月9日に策定された総務省「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」でもその重要性が示されています。

2. インターネット広告のリスク対策の概要

では、「アドフラウドを含む無効トラフィックの排除」や「ブランドセーフティの確保」はどのように実施すればよいのでしょうか。JICDAQでは、健全な広告配信を目指し、「広告掲載品質を検証する仕組み(アドベリフィケーション)」の実施を推奨しています。アドベリフィケーションとは、インターネット広告が正しい環境で安全かつ効果的に配信されているかを確認する取り組みです。具体的には以下の通りです。

・アドフラウド対策:
不正なクリックや無効トラフィックを排除し、広告費用の無駄を防ぐこと

・ブランドセーフティの確保
広告がブランドイメージを毀損するような不適切なサイトやコンテンツに掲載されないようにすること

JICDAQは、デジタル広告の健全化を目指し、特に「アドフラウドの排除」と「ブランドセーフティの確保」を重視した認証制度を実施しています。これらの対策を実践するための手段として、アドベリフィケーションツールの導入や、透明性の高い取引パートナーの選定が推奨されています。

3. 日本のアドベリフィケーション対策の現状と課題

インターネット広告におけるアドベリフィケーション対策は世界的に注目されていますが、日本国内ではまだ課題が残されています。ここでは、日本の現状と業界の課題を具体的な数値を基に解説し、その背景も合わせて整理します。

日本の現状と海外との比較

海外、特に米国や欧州ではデジタル広告のリスク管理が早くから進んでおり、アドベリフィケーションの重要性が広く認知されています。一方、日本では以下の状況があります。

Integral Ad Scienceが発表した「Media Quality Report: 20th Edition」によると、日本を含むAPACはアドフラウド対策の未実施率が高いことが指摘されています。当然ながら、アドフラウド対策が未実施の広告キャンペーンは不正率が高く、無駄な広告費を使っている可能性があります。

対策未実施率
・APAC:6.8%
・Americas:3.6%
・EMEA:4.2%

参照)IAS  Media Quality Report: 20th Edition

また、経済産業省が2023年に実施した調査では、日本特有の課題が改めて浮き彫りになっています。

・アドベリフィケーションツールを「すでに導入・利用している」と回答した広告主は11%
・「導入・利用を検討している」広告主は27%
・「導入・利用は考えていない」「特に対策はしていない」層も約半数

すでに対策している広告主はわずか11%にとどまり、利用意向がある層を含めても40%に届かないという状態です。

参照)経済産業省「広告主意識アンケート調査から見えるデジタル広告の『買い方改革』の必要性


業界的な課題とその背景

日本での取り組みが遅れている背景として、以下の要因が挙げられます。

・アドフラウド対策の遅れ:日本企業はアドフラウド被害の認識が低く、具体的な対策を後回しにしている傾向があります。アドフラウドの仕組みや影響についての理解不足、またはその影響が直接見えにくいため対策が進んでいません。

・広告掲載先の品質管理不足: 広告が価値の低いサイトやブランドに悪影響を与える可能性のあるサイトに掲載されるケースが多く、広告費の無駄遣いやブランド毀損のリスクがあります。原因として、広告効果をコストやインプレッション数などの数値指標のみで評価する広告主が多く、掲載先の質を軽視する傾向があります。

・企業規模による認知度・対策率の差:大企業と比較して中小企業ではアドベリフィケーションに対する認知や投資が遅れており、対策が不十分なまま広告を出稿している場合があります。これは中小企業におけるリソースや知見不足が原因となっています。

これらの課題を改善するためには、業界全体での啓発活動の強化、広告主・広告事業者間の情報共有の促進、そして企業規模を問わず広告掲載品質に目を向ける文化を育てることが求められます。

4. JICDAQの認証制度

JICDAQは、日本のデジタル広告業界の透明性と信頼性を向上させるため、広告代理店や広告配信システム提供企業、メディアを対象とした認証制度を提供しています。この制度により、デジタル広告の掲載品質に関する課題に取り組む企業を明確にし、市場全体の健全化を促進しています。

認証の対象分野
JICDAQの認証制度は主に以下の2つの分野を対象としています。

・アドフラウドを含む無効トラフィックの排除: 広告詐欺(アドフラウド)を防ぎ、広告が有効なユーザーに正しく届くようにすることを目的としています。

・ブランドセーフティの確保:広告がブランドにとって有害な内容や不適切なコンテンツに掲載されないように管理することを目的としています。


認証を取得するメリット

JICDAQの認証を取得することには、以下のようなメリットがあります。

・品質認証事業者として企業名が公開されることで、市場における信頼性や透明性が向上します。

・JICDAQに賛同している広告主は認証事業者との取引を推奨されているため、新たなビジネスチャンスや取引先獲得の機会が広がります。また、新規顧客獲得時の安心感向上や、既存顧客との信頼関係強化に繋がり、ビジネス拡大が期待できます。

・認証を取得することで、業務プロセスが適切であることが第三者機関によって認められます。

・JICDAQ認証を取得していることで、広告主に対して、品質管理体制が整っていることをアピールできます。コンペなどで事業者を選ぶ際に、認証取得が優位に働く可能性があります。

・2025年6月9日に策定された総務省「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」においても「品質認証事業者との取引」が取り上げられており、公的な信頼性も高まります。


現在の認証取得状況

2025年9月時点で、JICDAQ認証を取得した企業数は183事業者(388認証)に上っています。これらの企業は、JICDAQによって公開されており、デジタル広告業界内外での認知と信頼を高めています。

このように、JICDAQ認証制度は、日本のデジタル広告市場におけるリスク管理を推進し、業界の健全な成長を支える重要な取り組みとなっています。

参照)JICDAQ登録者リスト

5. JICDAQ賛同者向け制度

JICDAQには認証制度のほかに、広告主企業や省庁・地方自治体をはじめとした賛同者向けの制度があります。いわゆる「広告を売る側」を認証するだけではなく、登録アドバタイザー制度を設け「広告を買う側」を公表することにより、デジタル広告市場の健全化を現実的なものにしています。

登録アドバタイザー制度

登録アドバタイザー制度は、民間の広告主企業を対象とした費用負担のない制度です。現在180社以上が登録しており、JICDAQの理念への賛同とJICDAQ認証事業者への優先的発注、反社会的勢力への広告費流出防止への努力が登録条件となっています。

この制度に参加することで、デジタル広告課題の調査・情報提供、セミナーへの参加、デジタル広告出稿に関する知見獲得、社会からの信頼性向上といったメリットを享受できます。

参照)JICDAQ登録アドバタイザーについて


サポート官公庁制度による公共機関への支援

サポート官公庁制度は、省庁・地方自治体を対象とした費用負担のない制度で、現在総務省(情報流通適正化推進室)をはじめとした複数の中央省庁・地方自治体が登録しています。この制度では、省庁・地方自治体からJICDAQの活動理念や取組にご賛同をいただく一方で、JICDAQからデジタル広告出稿時の知見提供、公共機関向けセミナーの開催などの支援を提供しています。

特に、税金を財源とする公的機関にとっては、透明性のアピール、デジタル広告リスク管理の強化は喫緊の課題となっています。公共機関のデジタル広告活用が増加する中で、適切なリスク管理と透明性確保のサポートを行っています。

参照)JICDAQサポート官公庁について


賛同することの包括的な意義

実効性の観点からも、JICDAQ認証事業者を介した広告取引は、アドフラウドやブランドセーフティに関するリスクを軽減する効果が確認されています。

実際に2024年の調査では、認証事業者が関与する広告配信におけるアドフラウド率は0.2%~3.0%程度と報告されており、非対策時の平均値(最大8.4%)を大きく下回る水準です。このように、JICDAQ認証の取得と、それに基づく商流の構築は、実際の数値に裏付けられたリスク対策として機能しています。

さらに、総務省「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」においても、「まずは品質認証事業者との取引から対策を始めることが考えられる」とされており、広告主にとっては先行対応という観点でも、重要な選択肢となっています。

6. まとめ

デジタル広告市場の健全化は、企業単独ではなく、業界全体が協力して取り組むべき課題です。そのために設立されたJICDAQの認証制度は、アドフラウドやブランドセーフティなどデジタル広告が抱える品質問題に対処し、市場の透明性や信頼性を高める重要な枠組みとなっています。

広告主と広告関連事業者が協働し、広告掲載の品質向上に取り組むことで、市場全体のリスク軽減と信頼性向上が期待されます。今後さらに認証取得企業が増えることにより、広告主と消費者の双方にとって、安心・安全な広告取引が実現されることが望まれます。

JICDAQの活動は、デジタル広告業界が直面する課題への対策を促進し、日本の市場における広告掲載先の質を高める重要な役割を果たしています。広告主企業はこの制度を積極的に活用し、業界全体で品質向上の動きを広げていくことが求められています。

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